アニメや漫画、ゲームなどに所縁のある方々のプライベートな一面を覗いちゃおうというこの企画!!
今回は『少女革命ウテナ』を始め、『輪るピングドラム』、『ユリ熊嵐』などで知られるアニメ監督の幾原邦彦さんにインタビュー。「感じることに夢中でいたい」と語る幾原監督が、制作の合間に訪れる場所とは? 趣味のお話からクリエイターとしての意識の持ち方、仕事との向き合い方まで幅広くお話を伺いました!
気になる展示を見つけたらフットワーク軽く美術館へ
――この連載は「今、夢中になっていること」がテーマなのですが、幾原さんには夢中になっていることはありますか?
そうですね、好きなことはありますが、夢中かと聞かれるとそこまでではないかもしれないです(笑)。
――その好きなことはなんですか?
絵を観たりすることです。美術館によく行きます。
――ちなみに今行きたい展覧会は?
上野の国立科学博物館でやっている深海展に行きたいですね。(*特別展『深海2017』/2017年10月1日まで)
――アートだけでなく自然科学の展示も行かれるんですね?
なんでも、観たいと思ったものは行きます。アプリで検索して気になったものがあったら行く、という感じですね。
――アプリを見て興味を引かれたものを観に行くということですか?
あとは美術系の番組をテレビで観て「あ、こういうの来るんだ」とか情報を知りますね。それで、打ち合わせの帰りに美術館に寄ったり、たまたまこの日の午後が空いているとわかると行ったりしています。
――好きなアーティストなどはいらっしゃるんですか?
今、思い浮かぶのはバルテュス、藤田嗣治。他にも好きなアーティストや好きな絵はいっぱいあります。
実物の作品には試行錯誤のディテールがあるんです
――絵やアートに触れる喜びってどんなところですか?
その作家のディテールに触れられるところですね。今はネットの時代なので絵画やアート作品は簡単に見ることができます。スマホで調べれば、スッとその画像が出てくる。でもやっぱり実際に自分の目で観たいんです。印刷物やパソコンで観る物は試行錯誤のディテールが削がれてしまっていて、生で観るとその部分が感じられる。実物感みたいなところを確認にしたいんだと思います。
――実物感ですか?
メディアを通して観る物って、神々しくて距離を感じてしまうけど、実際にその絵を目の当たりにすると、人が手をかけたディテールを感じることができ、作品を作る際の迷いみたいなものが試行錯誤の痕跡として見えるんです。しかも自分が今いる場所とそういった作品が地続きでつながっているんだなと実感できて、ちょっとホッとするというか好きなんですよね。その時代に生きていた人がこれを描いていたんだっていう、クリエイティブな部分がすごく近くに感じられるので。それが楽しいのかなと思います。
――作家の悩みが作品のディテールにはあり、そういうのと自分を重ね合わせているってことでしょうか?
僕はアニメを作っているんですが、ぼやっとしていると自分がクリエイティブなことをしているという意識からちょっと外れてしまうことがあるんです。スケジュールに追われたり、合理的に作業を進めなきゃいけなかったりして。そうしたときに絵を観たり、アートに触れることで、自分が物を生み出しているんだということを改めて思うっていうのはありますね。それと“感じたくて”絵を観に行っている部分もあります。
――感じたくてですか?
これは年齢的なこともあると思うんですが、若いときのような、とにかく衝動に突き上げられるみたいなことが、まあ今もあるんですけど、やっぱり質が変わってきていると思うんです。若い人が普通に感じられることが、自分にはもう感じられない。感じられるものを意識的に探していかないと、感じなくなってしまうという不安があるんです。感じる回路が開かないというか動かないというか。そういう不安を解消したくて“感じたい”んです。
人生観が固まるに連れて回路は閉じてしまいがち
――年齢を重ねることで、感じる回路は開かなくなっていくものなんでしょうか?
年齢を重ねるにつれて、スレちゃうんじゃないかと思います。「あ、これ知ってるな」と思うと、「もう、いいや」って幕が下りちゃうみたいな。例えば僕がこの仕事をやめて、突然「漁師になる!」なんてことはあまりないと思います。ただ若い頃はフロンティアが広い。何かをしていても「これじゃないかもしれない」と思っても取り組んでみたりするんです。だからこそ、若い時はいろいろなものにアンテナが向いている。でも、ある程度経験を重ねたり、キャリアを築いていくと、「自分はコレだ」と自分の人生を限定していくと思うんです。そんなふうに人生観が固まると、同時にいろんなところに張り巡らせていたアンテナが動かなくなる。「そっちはもういいや」、「そっちは無駄だな」って。自分には関係ないっていうふうにシャッターを下ろしちゃう。
――漁師のほうにはシャッター下ろしちゃいましたよね、多分(笑)。
そうですね、マタギとかもないかな(笑)。自分もこの仕事を始めた頃は、「自分にはこの仕事があっているのかな?」と常に疑問を抱き、首をひねりながらやっていたんですが、いつの間にか「コレだったんだ!」となったわけです。そういう立場になって気づいたのですが、「コレじゃないだろう?」と思っていた頃のほうが様々な可能性に対して回路は開いているんだなって。「コレだ!」と思ったときにはもう閉じている。他のことは「もういいや」となってしまっている。そうなると、「自分の得になるな」という情報だけを摂取しようとしていくんですよね。そうなると何かを選ぶときに感情ではなく、損得で決めてしまい「感じる」という感情で決めなくなってしまうんですよね。制作をしていく上で、感じることが先にこないで、頭だけで作ろうとしてしまうことが自分にはあるような気がして。だから、意識して感じなきゃいけないと思っているんです。
無駄を省いていると、無駄を摂取したくなる
――アートに触れるのは“感じる回路”を開くためでもあるんですか?
そうですね。あとは“無駄”に触れたくなるっていうのもありますね。
こういうと語弊があるかもしれませんが、僕はアートの世界って無駄の世界かなと思っているんです。アートがなくても生きていけるじゃないですか。でも、そういう無駄が良いものだとなんとなく思っているんです。僕の仕事はビジネスの上に成り立っているものなので、合理的に進めなければいけない部分も多々あって、その過程で無駄を省いていくことにならざるを得ない局面もあるんです。そこに恐怖心やジレンマもある。無駄を省くことは可能性を捨てることでもあるので。そういうことのしがらみの中にいると、無駄を摂取したくなるっていう。
――無駄を排除して、無駄を摂取(笑)。
クリエイティブって、「無駄だな~」っていうことの中にあるような気がするんです。だから無駄を観に行きたくなる。無駄を観たい、無駄を摂取したいって(笑)。
伝わったときの嬉しさがあるから続けていられる
――ジレンマの中で制作しているんですね。ちなみに“好き”を仕事にした人はストレスをどう解消するのでしょうか?
フラストレーションは絶えずありますよ。それはあらゆるディテールにあります。「伝わらないな」っていうのと、「違うな」っていうのは絶えず、それが原因であっていさかいもある。でも、それで嫌になってやめちゃわないのは何ででしょうね(笑)。
――好きだからこそ嫌な部分が見えたときに逃げ道がなくなり、辛いのかなと思うのですが。
なんだろう。自己満足的なところでいえば、僕の場合は作ったものをメディアで発表したときに、多少今の時代に生きているって実感できるってことが嬉しいので嫌にならないんでしょうね。そして、ちょっと遠回りしないと僕はわからないのかもしれない。たとえば家族を作ったりして実感するようなことが、僕は感じられないところがあるのかなと。そこが鈍いところなんじゃないのかなと思ってね。
――制作していく課程に喜びはありますか?
「通じ合った」という感覚も作品を作る動機づけになっていると思います。僕はコミュニケーションを取ることが苦手なほうなんです。普通に人間関係を育むことができなくて、学校でいったらクラスの中でも完全に浮いているような子だったんです。協調性がない子、落ち着きのない子。でも、アニメを作る仕事は個人作業では出来ないので、絶対にある種のコミュニケーションを取らざるを得ない。「伝わらないなあ」と思いながら作っているんですけど、でも伝わる瞬間とかがあるんですよね。その伝わる瞬間がちょっと嬉しいんです。
――伝えるって難しい分、伝わったときは嬉しいですよね。
いろんな考え方を持っている人と、ちょっと対立したり、「違うんだけど」って言いながらも「わかった」って言ってもらえたとき、あるいは僕が「わかった」っていうときに感じる嬉しさやホッとした感じが、アニメを作り上げていく過程のストレスよりもかろうじて勝っている、だから続けていられるのかもしれないです(笑)。
アニメを作るということは物量が圧倒的に多いので、そこに関わる全スタッフが僕の考え全てを共感を持って成すということは不可能なので。それは当然伝わらない部分もあるんです。それと同時に、集団作業では合理的に進めることも考えなくてはいけないので。そうすると無駄を省くことを求めなきゃいけない。なかなかそこは辛いですよね。
――そして無駄を求めてアートに触れるために美術館へ行き…。
そうなんですよ。ぐるぐるしてるんですよ。無駄を省いて、無駄を摂取したくなって、無駄を省いて無駄を摂取したくなって、ぐるぐるしている。
――伝わらないと思いながらも伝わった瞬間にちょっと嬉しくなって。
「伝わらねえ」って思いながらも、「伝わらねえ」と思っている自分の方が感じることを放棄していたりするんですよね。感じていないのは自分だった、伝わっていなかったのは自分だったみたいな(笑)。そういう矛盾の中にいるので、伝わった瞬間やそれで作品が作れることは喜びですね。
――幾原さんは、「何に夢中」と言ったらいいでしょうね。アートに夢中という話ではきっとないですよね。
そうですね。感じることかな。“感じることに夢中でいたい”と思っていますね。
幾原邦彦さんから
夢中になっているみなさんへ応援メッセージ
「自分には夢中になれるものがない」と思っている人でも、見て感じて回路は開いていくことができます。そこから夢中になることが生まれてくるんじゃないかな、と僕は思います。
夢中になっている人も、いろいろな可能性のある「回路」をたくさん開いてください。
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